12月28日18時 更新しました。

『象を撃つ』ジョージ・オーウェル

象を撃つ ジョージ・オーウェル 海外小説

ジョージ・オーウェルの『象を撃つ』Shooting an Elephant)は、1936年に発表されたエッセイで、オーウェルが英国植民地時代のビルマ(現ミャンマー)で警察官として勤務していた際の経験をもとに書かれています。この作品は、植民地主義の矛盾と人間の心理を鋭く描写したもので、オーウェルの社会批評的な作風を象徴する一作です。


あらすじ

物語の語り手であるイギリス人(オーウェル自身を暗示)は、ビルマの植民地で警察官として勤務しています。彼は、現地の人々に対して英国の支配を象徴する存在として嫌悪されており、孤立感や植民地主義への嫌悪感を抱えています。

ある日、暴れた象が街を混乱に陥れているという報告を受け、彼はその場を収めるために出動します。象はすでに落ち着いており、危険ではないことが分かりますが、大勢の地元住民が彼に象を撃つことを期待して集まってきます。

語り手は象を撃ちたくないと感じています。象はすでに静かで、無害であるとわかっているからです。しかし、大勢の観衆の前で自分の弱さを見せることができないというプレッシャーに屈し、彼は象を撃つ決断をします。

最初の一発では象を殺すことができず、象は苦しみながらもゆっくりと倒れ、最終的に何発も撃たれて命を落とします。語り手は、その行為に罪悪感を覚えながらも、観衆の期待に応えたことで「面目を保った」と感じます。


テーマ

1. 植民地主義の矛盾
この作品は、植民地主義が支配者と被支配者の双方に及ぼす負の影響を描いています。植民地支配者である語り手は、権力を持ちながらも実際には現地住民の期待や圧力に支配されており、自らの行動が自発的ではないという矛盾を痛感します。

2. 群衆心理と個人の自由
語り手は象を撃ちたくないと思いつつも、大勢の観衆に期待される中でその期待に逆らえず行動します。この状況は、個人が群衆心理に圧倒され、自由な意思決定ができなくなる様子を示しています。

3. モラルと権力
象を撃つ行為そのものが、語り手にとって道徳的なジレンマです。彼は象を撃つことが間違っていると理解しつつも、自らの立場と権力の象徴性のためにそれを行います。この矛盾が、植民地支配の非人間性を象徴しています。


象の象徴性

象は、植民地支配そのものを象徴していると解釈されることがあります。植民地は一見静かで制御されているように見えますが、内側には不安定さや暴力の潜在的な危険が潜んでいます。また、象を殺す語り手の行為は、支配者側の暴力性とその無意味さを浮き彫りにしています。


文学的評価

『象を撃つ』は、オーウェルの社会批評的エッセイの中でも特に高く評価される作品であり、彼の植民地主義や権力に対する批判的視点を示しています。簡潔で鋭い描写と、複雑な心理を浮き彫りにする語り口は、多くの読者に強い印象を与えました。


読む価値

『象を撃つ』は、植民地主義や権力、群衆心理、そして人間の道徳的ジレンマについて深く考えさせられる作品です。特に、社会的な圧力や期待に屈する人間の弱さを描いており、現代社会でも共感できるテーマが多く含まれています。また、オーウェルの簡潔で明快な文体は、テーマの重さを分かりやすく伝える力があります。


終わりに

『象を撃つ』は、ジョージ・オーウェルの哲学と社会批評を最もよく表現したエッセイの一つです。植民地主義の矛盾と人間の心理的葛藤を通じて、読者に深い洞察を与え、道徳や権力の本質について考えるきっかけを提供します。

青空文庫

青空文庫で、公開されています。

象を撃つ (オーウェル ジョージ)
下ビルマのモールメンにいた頃、私は大勢の人たちから憎まれていた――生涯でただ一度、憎悪に足るだけの要職に就くことになったわけだ。町の分署の警官だった私に、無目的で狭量な反欧州的感情はひどく辛かった。…

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