12月28日18時 更新しました。

『春琴抄』谷崎潤一郎

『春琴抄』谷崎潤一郎 日本小説

概要

『春琴抄』(しゅんきんしょう)は、谷崎潤一郎が1933年に発表した小説で、美と献身、官能、そして狂気をテーマにした物語です。作品は、谷崎が追求した「日本的な美意識」と、彼独自の「耽美主義」が色濃く表現されており、日本文学の名作として評価されています。物語は、盲目の美しい琴の師匠・春琴と、彼女に仕える忠実な弟子・佐助の異常なまでの献身と愛を描いています。

あらすじ

物語は、江戸時代末期から明治時代の大阪を舞台に、盲目の琴と三味線の師匠である春琴と、その弟子佐助の関係を描いています。

登場人物

  • 春琴(しゅんきん):盲目の琴と三味線の師匠。非常に美しく、傲慢で厳格な性格。弟子や周囲の人々に冷たく接するが、その美しさと芸事への厳格な姿勢が人々を惹きつけます。
  • 佐助(さすけ):春琴の忠実な弟子であり、彼女に深く献身しています。春琴に対する愛情と尊敬が強く、彼女のためにどんな犠牲もいとわない性格です。

主なストーリー

春琴は盲目ながらも、その美しさと音楽の才能で多くの弟子を持つ琴の師匠です。彼女は非常に高慢で、弟子たちに厳しく接しますが、佐助は春琴に対して異常なまでの忠誠心を抱いています。彼は春琴の言葉一つで全てを捧げ、彼女のためならどんな犠牲もいとわない覚悟を持っています。

物語が進むにつれて、佐助の献身は次第に狂気じみたものとなります。ある日、何者かによって春琴が顔に熱湯をかけられる事件が発生し、彼女の美しい顔は大きな傷を負ってしまいます。春琴は自分の顔を佐助に見られることを恐れますが、佐助は「あなたの顔を見ずに生きていく」と誓い、自らの両目を刺し、盲目になるという驚くべき決断をします。

その後、二人は共に盲目の生活を送りながら、春琴の指導のもとで音楽を追求し続けます。物語の結末では、佐助の献身によって二人の関係は究極の愛と美の形に昇華されるかのように描かれています。

テーマ

盲目の美と耽美主義 谷崎は、視覚的な美を描きながらも、盲目である春琴の内面的な美しさを強調しています。春琴の美しさと傲慢さが佐助を魅了し、その結果として佐助の徹底的な献身が生まれます。盲目というテーマは、美と官能の追求において、視覚に頼らない美意識を強調する役割を果たしています。

献身と自己犠牲 『春琴抄』の中で佐助が春琴に捧げる献身は、常軌を逸したもので、彼は自分の視覚を犠牲にすることで究極の忠誠を示します。これは、単なる愛や奉仕のレベルを超えたものであり、佐助にとっての存在意義そのものが春琴への奉仕にあるといえます。この献身の描写が、物語全体を異様な美意識で包み込んでいます。

支配と服従 春琴と佐助の関係は、春琴の支配と佐助の服従という形で成立しています。春琴は冷酷に佐助を支配し、佐助はその支配を喜んで受け入れます。この支配と服従の関係は、二人の愛が一般的な恋愛関係とは異なるものであることを示しており、愛と美、服従と献身の関係性を通じて、独特の心理描写が行われています。

美と破壊の共存 春琴の顔が傷つき、それでもなお佐助が彼女に尽くし続けるという構図は、美と破壊が共存する様子を象徴しています。佐助が自ら盲目になることで、視覚的な美を捨て、内面的な美を追い求めるというテーマが浮き彫りになり、美とは何かという問いが作品全体に投げかけられています。

文体と特徴

谷崎潤一郎の文体は、華麗で細やかな描写が特徴です。彼は登場人物の心理描写や美意識を丁寧に描写し、読者に耽美的な世界観を提供します。また、春琴と佐助の関係性の中に潜む狂気や官能が、細かい筆致で表現されており、読者に強烈な印象を与えます。『春琴抄』は、日本の伝統的な美意識と、谷崎が持つ独特の感性が融合した作品として評価されています。

評価と影響

『春琴抄』は発表以来、日本文学において高い評価を受け続けており、谷崎潤一郎の代表作の一つとして広く知られています。谷崎の描いた「耽美主義」と「日本的な美意識」が、特にこの作品で見事に結実しているとされています。また、この作品は日本国内だけでなく、海外でも翻訳され、独特の美学や人間関係の描写が多くの読者に衝撃を与えました。

結論

『春琴抄』は、愛と献身、官能と狂気が交錯する物語であり、谷崎潤一郎の美意識が色濃く反映された作品です。盲目の美と極端な献身を通して、日本的な美学の本質を探求しているこの作品は、時代を超えて読者に衝撃を与え続けています。

青空文庫

青空文庫で、公開されています。

春琴抄 (谷崎 潤一郎)
○春琴、ほんとうの名は鵙屋琴(もずやこと)、大阪道修町(どしょうまち)の薬種商の生れで歿年(ぼつねん)は明治十九年十月十四日、墓は市内下寺町の浄土宗(じょうどしゅう)の某寺(ぼうじ)にある。…

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