12月28日18時 更新しました。

『ちいさこべ』山本周五郎 

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『ちいさこべ』は、山本周五郎による1957年発表の長編小説で、時代小説としての枠を超えた深い人間ドラマを描いています。この作品は、逆境の中で信念を持って生きる人々の姿を通じて、困難を乗り越える力や人間関係の美しさを描き出しています。


あらすじ

物語の主人公は、江戸時代の町大工の若棟梁である**茂次(もじ)**です。彼の家は大火事によって焼け落ち、両親も亡くしてしまいます。一人残された茂次は、再建に向けて前に進もうとしますが、周囲からは棟梁としての器量を疑われています。

茂次は、自らの信念を貫きつつ、「人は人、自分は自分」という考えで、自分のやり方で困難を乗り越えようとします。彼は家の再建を進めるだけでなく、周囲の困窮した孤児たちを引き取り、彼らを養いながら大工としての仕事に励みます。

物語の中で、茂次は孤児たちや周囲の人々と関わる中で、徐々に人間としての器を大きくしていきます。孤児たちの成長や、茂次を支える女性おりょうとの関係も描かれ、愛情や絆が物語に温かみを与えています。


主な登場人物

  • 茂次(もじ)
    若き大工の棟梁で、頑固で自分の信念を貫く性格。火事で家と家族を失い、苦境の中でも再建を目指す。
  • おりょう
    茂次を支える女性で、孤児たちの面倒を見ながら彼を支援する。しっかり者で、茂次の良き理解者。
  • 孤児たち
    茂次が引き取った困窮する子どもたち。彼らの存在が茂次の成長や人間性を形作る重要な役割を果たす。
  • 周囲の大工仲間や町の人々
    茂次の生き方に疑念を抱きつつも、次第に彼を認めていく人々。

テーマ

1. 困難への挑戦と再生
茂次は家族と家を失うという絶望的な状況に直面しますが、信念を持ち続けることで逆境を乗り越えます。このテーマは、人生における再生や希望を象徴しています。

2. 信念と自立
茂次の「人は人、自分は自分」という信念は、他人の評価や価値観に左右されず、自分の道を歩む重要性を示しています。

3. 人間関係と絆
孤児たちやおりょうとの関係を通じて、家族や仲間の絆の力強さが描かれています。このテーマは、個人の成長だけでなく、共同体の重要性をも示しています。


文学的特徴

1. 山本周五郎の人間描写
山本周五郎は、登場人物の心理や成長を繊細かつリアルに描くことに定評があります。この作品でも、茂次や周囲の人々の人間味あふれる描写が魅力です。

2. 時代小説を超えた普遍性
『ちいさこべ』は時代小説の形式をとりながらも、テーマや描写は現代にも通じる普遍性を持っています。困難に直面したときの人間の強さや弱さ、そして希望の大切さが描かれています。

3. 温かみとユーモア
登場人物の会話や日常の描写には、山本周五郎ならではのユーモアや温かみが感じられます。


文学的評価

『ちいさこべ』は、山本周五郎の代表作の一つであり、時代小説としてだけでなく、人間ドラマとしても高く評価されています。特に、困難を乗り越える人間の力や、他者との絆の大切さを描いた点で、幅広い読者層に感動を与えています。


読む価値

『ちいさこべ』は、逆境に立ち向かう人々の姿を描いた感動的な物語です。茂次の信念と成長、そして孤児たちやおりょうとの温かい関係を通じて、読者は人間の可能性や絆の力強さを感じることができます。また、時代を超えて愛される普遍的なテーマを持つ作品として、初めて山本周五郎の作品に触れる人にもおすすめです。


終わりに

『ちいさこべ』は、困難な状況においても信念を持ち、他者とともに成長していく人間の力を描いた名作です。山本周五郎の優れた人物描写と、温かみのある物語が、読む人の心を深く打つことでしょう。

青空文庫

青空文庫で、公開されています。

ちいさこべ (山本 周五郎)
一 茂次(しげじ)は川越へ出仕事にいっていたので、その火事のことを知ったのは翌日の夕方であった。当日の晩にもちょっと耳にした。川越侯(松平直温(なおあつ))が在城なので、江戸邸から急報があったのだろう…

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